メタバースを飲食業界で活用した事例は、ここ数年で国内外に広がっています。ただし、その中身はかなり幅があります。年に数回開催されるVRイベントへの期間限定出展もあれば、企業が自前で常設の仮想空間を運営するケースもあり、すでに役目を終えて終了しているものも少なくありません。
本記事では、食品メーカーと飲食店・外食チェーンの両方から、開始時期・施策の内容・2026年10月時点での状況が確認できる事例を集めて紹介します。「メタバースを使えばどんな効果が見込めるのか」という考え方の部分は、関連記事「メタバースは食品業界でどう使えばいい?4つの事例を徹底解説」で解説していますので、本記事ではそこで取り上げた4社を含む7つの事例を、より詳しく掘り下げてご紹介します。
メタバース×飲食の事例は2パターンある
飲食業界でのメタバース活用は、大きく分けると「単発イベントへの出展」と「自社による常設運営」の2種類があります。どちらに当てはまるかによって、施策の目的も終了のタイミングも異なります。
バーチャルマーケットのようなVRイベントへの出展は、開催期間中だけ体験できる単発施策です。開催が終われば体験も終了するのが前提であり、「継続的に取り組んでいる」というより「節目ごとに参加している」と捉えるのが実態に近いといえます。一方、企業が自前のメタバース空間を立ち上げて常設運営する場合は、サーバー費用やコンテンツ更新など継続的なコストが発生するため、目的と合わなくなった時点で終了判断につながりやすくなります。
以下の表は、本記事で紹介する7つの事例を分類したものです。
| 分類 | 企業・事例 | 施策の概要 | 開始時期 | 2026年10月時点の状況 |
|---|---|---|---|---|
| 単発イベント出展(食品メーカー) | 日清食品 | バーチャルマーケット2023 Summerへの初出展 | 2023年7月 | 終了(単発開催のため) |
| 単発イベント出展(食品メーカー) | コカ・コーラ(米国本社) | フォートナイト内ワールドでの新フレーバー訴求 | 2022年4月 | 終了(期間限定施策) |
| 単発イベント出展(複数回参加) | 大丸松坂屋百貨店 | バーチャルマーケットへの複数回出展、グルメ商品の販売 | 2020年12月〜 | 開催ごとに出展(常設ではない) |
| 常設運営→終了(食品メーカー) | ブルボン | 自社運営「ブルボンメタバース」など | 2023年6月〜 | 2026年3月31日終了 |
| 単発トライアル(食品メーカー) | ふくや | 体験型オンライン店舗の共同トライアル | 2021年10月 | 終了(3日間の計画どおり) |
| 常設運営(飲食店) | モスバーガー | VRChat「モスバーガー ON THE MOON」 | 2022年9月 | 継続中 |
| 常設運営・研修(飲食店) | 松屋フーズ | VR接客トレーニング「MaVROS」 | 2019年8月 | 公開情報からは継続状況を確認できず |
飲食業界のメタバース事例
食品メーカーの活用例は、バーチャルマーケットなど年に数回開催されるVRイベントへの期間限定出展が中心です。ただしブルボンのように、協賛参加から地域連携を経て自社運営の常設メタバースにまで踏み込んだ企業もあります。
日清食品|バーチャルマーケット2023 Summerの「カップヌードル」ブース
日清食品は2023年7月15日〜30日に開催された「バーチャルマーケット2023 Summer」に初出展しました。カップヌードルの製造工程を学べる工場見学からスタートし、途中でユーザーが「カップヌードル大帝」に改造されるオリジナルの脱出アクションゲーム、フォトスポット、おみやげコーナーまでを一つの導線にまとめたブース構成です。
出展の狙いは、ふだんからメタバースやVRイベントに親しんでいる若年層への認知獲得にあると見られます。バーチャルマーケットは開催期間が決まっている単発イベントのため、会期が終了すると体験も終了しており、常設の施策ではありません。
コカ・コーラ|フォートナイトのワールドで仕掛けた新フレーバー訴求
米国のコカ・コーラは2022年4月、フォートナイト内に自社テーマのワールド(アイランド)を公開し、新フレーバー「Zero Sugar Byte」を訴求しました。80年代風のネオンデザインをまとったマップの中で、タワー型アクションなど複数のミニゲームを楽しめる構成です。
ゲームの世界観を新商品のイメージと結びつけ、プレイを通じて現実の商品への関心を高める狙いの施策です。日本法人の取り組みではなく、期間限定のプロモーションとして実施されたものであり、常設のワールドとして現在まで維持されているわけではありません。
大丸松坂屋百貨店|バーチャルマーケットに複数回出展した「ごちそうグルメ」
大丸松坂屋百貨店は2020年12月にバーチャルマーケットへ初出展して以降、2021年10月、2022年2月、2022年8月と、開催のたびに複数回出展を重ねています。年末年始にはローストビーフやカニ鍋など2,700点を超えるグルメ商品をバーチャルカタログ経由で販売し、来場者が3Dモデルを手に取って商品を確認できる構成をとりました。
出展を重ねているため一見「常設的」に見えますが、実態はバーチャルマーケットという単発イベントへ毎回参加している形です。出展のたびにブースの内容や社員の接客方法を見直しており、単発参加を繰り返しながらノウハウを蓄積している事例といえます。
ブルボン|協賛参加から自社運営メタバースへ、そして終了
ブルボンは当初、他社が主催するメタバースイベントへの協賛という形で関わっていました。バーチャルアルフォートチョコレートの配布など、まずは露出を増やす段階からのスタートです。
その後、2023年2月15日には、新潟市の「古町地区魅力創造支援事業」の一環として、XRクリエイティブスタジオのGugenkaと共同でメタバース空間「KURASUTO」を公開しました。新潟駅から古町までの約2キロメートルに点在する名所をバーチャル空間に再現したもので、ブラウザとVRゴーグルの両方からアクセスできる構成です。地域の魅力発信という文脈で、ブルボンが地域連携型の常設空間づくりに関わった事例といえます。
ブルボンはさらに2023年6月29日、自社運営の「ブルボンメタバース」をグランドオープンしました。「お菓子な森」「ブルボン本社」「宇宙空間」の3エリアで構成され、オリジナルキャラクターを使ったゲームやAR機能など、商品にとらわれない体験コンテンツを継続的に追加してきました。
しかし、このブルボンメタバースは2026年3月31日17時をもって終了しています。公式サイトには終了の予定のみが告知されており、具体的な終了理由は明記されていません。協賛参加から地域連携、自社運営へと段階的に踏み込んだ末に、約2年9か月の運営で終了に至った事例です。
飲食店・外食チェーンの活用事例
飲食店側の活用は、商品プロモーションにとどまらず、仮想店舗での購買体験や、接客スキルを磨くための研修ツールとしての側面も持っています。食品メーカーの事例とは異なる切り口で参考になります。
ふくや|3日間限定の「体験型オンライン店舗」トライアル
明太子メーカーのふくやは2021年10月29日〜31日の3日間、関西テレビハッズ、札幌テレビ放送、万田発酵との共同トライアルとして「体験型オンライン店舗」に出店しました。バーチャル空間に店舗を再現して各店舗にスタッフを配置し、来場者がアバターを操作して商品を見て回りながら、スタッフに話しかけて購入する形式です。来場者のうち約30%が商品購入に至ったと報告されています。
この施策はもともと3日間限定のトライアルとして設計されたものであり、期間終了とともに計画どおり終了しています。常設の店舗運営に移行した形跡はなく、単発の実証実験という位置づけです。
モスバーガー|VRChatの「モスバーガー ON THE MOON」は継続して公開中
モスフードサービスは2022年9月14日、新商品「月見フォカッチャ」の発売に合わせて、VRChat上に仮想店舗「モスバーガー ON THE MOON」をオープンしました。月面という設定の店舗で、テラスからは地球を一望でき、VRゴーグルがあれば24時間365日アクセスできる構成です。
オープン後も、2023年3月から2024年2月にかけてプロレスラーのアバターを起用した期間限定コンテンツを追加するなど、コンテンツの更新を重ねてきました。2026年10月時点でも店舗自体は引き続き公開されています。新商品プロモーションという単発の目的から始まりながら、常設の仮想店舗として運営が続いている事例です。なお、公開状況や更新頻度は今後変わる可能性があります。
松屋フーズ|新人教育に使うVR接客トレーニング「MaVROS」
松屋フーズは2019年8月、一部店舗でVRを使った接客トレーニング「MaVROS」を先行導入し、同年9月に正式発表しました。接客経験のない高校生や、日本語に不慣れな外国籍スタッフでも実践的に学べるよう、声の大きさや速度、目線といった接客の基準をVR上で自動判定する仕組みを備えています。全国1,170店舗への展開を目指すと発表されました。
この事例は、他の施策のような来場者向けの体験空間ではなく、従業員教育に特化したVRツールという位置づけです。複数人が同じ仮想空間に集まるソーシャル型のメタバースではなく、個人で体験する研修用VRコンテンツである点は、他の事例と区別しておく必要があります。なお、2019年の発表以降の展開状況については、公開情報からは確認できていません。
続いた事例と終わった事例の違い
ここまでの事例を比較すると、終了した施策の多くは、そもそも期間限定イベントへの参加やトライアルとして設計されていたものです。一方で継続している事例は、商品プロモーションや従業員教育といった既存の業務に組み込まれている点が共通しています。
日清食品、コカ・コーラ、大丸松坂屋百貨店、ふくやの4事例は、いずれも単発のイベント出展またはトライアルとして実施されたものです。これらが「終了」しているのは失敗ではなく、もともと期間や回数が決まった施策として計画どおりに終えたものと見るのが妥当です。
一方、ブルボンは協賛参加から地域連携、自社運営へと段階的に踏み込み、最終的に常設のメタバース空間を2023年6月から2026年3月までの約2年9か月運営しました。単発出展と違い、常設運営にはサーバー費用やコンテンツ更新など継続的なコストがかかります。目的に対して運営コストが見合わなくなれば、終了判断につながりやすい構造といえます。
飲食業界のメタバース事例から見える傾向
ここまでの事例を踏まえると、飲食業界でのメタバース活用は「認知獲得を狙った単発施策」と「既存業務に組み込んだ常設施策」に大きく分かれます。どちらが優れているかではなく、自社の目的に合わせて使い分けることが重要です。
認知獲得が目的なら単発施策で足りる
新商品の認知やブランド体験の提供が目的であれば、バーチャルマーケットのような単発イベントへの出展で十分に目的を果たせる可能性があります。常設運営を前提にする必要はありません。
既存業務に組み込むなら常設運営を検討する
商品プロモーションや接客研修など、すでにある業務プロセスの一部を置き換える目的であれば、常設での運営が選択肢になります。ただし、継続的な運営コストを見込んだうえでの判断が必要です。
集客につながると断定できる根拠はない
いずれの場合も、「メタバースを導入すれば集客につながる」と断定できる根拠は、本記事で紹介した事例の範囲では確認できません。来場者数や購入率などの数値が公表されている事例は限られており、施策ごとに目的と成果の指標が異なる点に注意が必要です。
自社がどちらのパターンに向いているかは、目的とメタバースの特性が合っているかどうかで変わります。判断の考え方については「自社はメタバースを導入するべきなのか?2つの判断基準をもとに解説」で解説していますので、あわせてご覧ください。また、食品業界がメタバースで解決できる課題・できない課題については「メタバースは食品業界でどう使えばいい?4つの事例を徹底解説」で詳しく解説しています。
よくある質問
メタバース×飲食の事例について、よく寄せられる疑問に一問一答でお答えします。個別の事例の詳細は、前述の各章もあわせてご確認ください。
ブルボンメタバースは今も利用できますか?
いいえ、利用できません。ブルボンメタバースは2026年3月31日17時をもって終了しており、現在はアクセスできない状態です。
モスバーガーの「ON THE MOON」は今も訪問できますか?
2026年10月時点では、引き続き公開されています。ただし公開状況やコンテンツの更新頻度は今後変わる可能性があります。
バーチャルマーケットのようなイベントへの出展は、どの企業でもできますか?
出展枠を確保し、ブース制作などの費用を負担すれば、企業として出展すること自体は可能です。ただし開催期間が決まった単発イベントであるため、出展した実績がそのまま常設の集客装置になるわけではない点に注意が必要です。
飲食店がメタバースを導入すれば、集客につながりますか?
必ず集客につながるとは限りません。本記事で紹介した事例でも、期間限定の体験提供にとどまったものと、研修など既存業務に組み込んで継続しているものとに分かれています。自社がどちらの目的に近いのかを先に見極めることが重要です。
食品業界がメタバースで解決できる課題について、もっと詳しく知りたいです。
認知獲得やコミュニケーション、ECサイトだけでは提供しきれない体験価値などが挙げられます。詳しくは「メタバースは食品業界でどう使えばいい?4つの事例を徹底解説」で解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ
飲食業界のメタバース活用事例は、単発イベントへの出展と、自社による常設運営に大きく分かれます。日清食品・コカ・コーラ・大丸松坂屋百貨店・ふくやは単発施策として計画どおりに終了しており、ブルボンは常設運営まで踏み込んだ末に2026年3月31日で終了しました。一方、モスバーガーは商品プロモーションを起点に常設の仮想店舗として継続しており、松屋フーズは従業員教育のためのVRツールとして導入されています。
事例ごとに目的も終了・継続の背景も異なるため、「メタバースを使えばこうなる」と一括りにはできません。自社がどの目的でメタバースを検討しているのかを先に整理したうえで、単発施策と常設施策のどちらが合っているかを判断することが大切です。
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