メタバース記事

自治体のメタバース観光活用事例11選|続く施策と終わる施策の違い

自治体のメタバース観光活用事例11選|続く施策と終わる施策の違い

メタバースを使った観光振興は、2020年代前半のブームを経て「予算がついた年だけ盛り上がり、翌年には静かに閉じる」施策と、「地域に根づいて継続している」施策とに二極化しています。自治体の観光・企画担当者やDMO、観光事業者の方の中には、他の自治体の事例を見ても「結局うちで続くのか」が判断できず、企画が前に進まないというお悩みも多いのではないでしょうか。

本記事では、自治体がメタバースで観光誘客や関係人口づくりに取り組んだ事例を目的別に整理し、継続している施策と終了した施策の違い、導入時に注意すべき点まで解説します。結論から言うと、続いている施策には共通して「単発イベントで終わらせない運用設計」と「現実の観光・特産品購入への導線」があります。逆に言えば、この2点が設計段階で抜けている施策は、話題性が一巡した時点で終了しやすい傾向にあります。

メタバース観光とは

メタバース観光とは、インターネット上の仮想空間(メタバース)に観光地やご当地キャラクターを再現し、アバターを通じて疑似的な観光体験や物産購入ができるようにした取り組みです。自治体では「来てもらう前の認知獲得」や「現地に行けない層との接点づくり」を目的に導入されるケースが多く見られます。

コロナ禍で非接触型の情報発信手段として注目されましたが、インバウンドが回復した現在は役割が変化しています。実際の渡航前にメタバースで観光地を予習してもらい、現地訪問につなげる「来訪前エンゲージメント」としての活用や、JNTO(日本政府観光局)と直接の連携はないものの、民間事業者がMeta Horizon Worlds上で「Visit Japan」ワールドを公開するなど、インバウンド接点としての実験も進んでいます。

なお「メタバース 観光」と検索する方の多くは、単なる言葉の意味よりも「自分の自治体・地域で何から始められるか」「他の地域はどこまで続いているか」を知りたいと考えているはずです。そこでこの記事では、言葉の定義は最小限にとどめ、実際の事例と継続可否の分析に重点を置いて解説します。

自治体がメタバースで目指す4つの目的

自治体のメタバース活用は、目的によって向いている手法や継続のしやすさが大きく異なります。観光誘客のように地域の魅力を広く知らせる施策は単発イベントでも一定の効果がありますが、関係人口づくりや移住促進のように「関係を続ける」ことが目的の施策は、継続運用を前提に設計しないと成果が出る前に終了してしまいます。

下表は、本記事で確認した事例をもとに、目的別に向いている手法と継続しやすさの傾向を整理したものです。

目的向いている手法継続しやすさの傾向
観光誘客観光地の3D再現、物産販売、商業施設との連携地域の商業施設・事業者と収益を分け合える設計なら継続しやすい
関係人口づくり・移住促進デジタル住民票、NFTコミュニティ、婚活・交流イベントコミュニティ運営の担い手が住民側にいると継続しやすい
文化財のデジタル保存3Dスキャン、VRアーカイブ一度作れば更新コストが低く、単体では継続判断されやすい
イベント・ファンマーケティング既存ファンクラブとの連携、スポーツ・音楽との掛け合わせ既存コミュニティに乗せる施策は継続しやすい
教育・人材育成単発講座、ワークショップ講座が終わると目的も終わるため終了しやすい

【目的別】自治体のメタバース観光事例11選

ここでは、観光誘客・関係人口づくり/移住促進・教育の3つの目的別に、現在も稼働している事例を中心に紹介します。終了した施策についても、教訓として「終了した」ことを明記したうえで取り上げます。

観光誘客

観光誘客目的の施策は、観光地そのものを再現して疑似体験してもらう形が主流です。単なる3D再現で終わらず、物産購入やリアルイベントとの連動を持たせている事例は継続している傾向があります。以下は、本記事執筆時点(2026年10月)で確認できた最新状況です。

  • 埼玉県「バーチャル埼玉」:2023年11月にオープンした県公式メタバースで、2026年10月にはプラットフォームをclusterへ移行し、5エリア構成にリニューアルしています。エントランスや県内河川・街並みをモチーフにしたエリアを持ち、参加費は無料です。
  • 石川県金沢市「MIHON-ICHI KANAZAWA」:金沢フォーラス(商業施設)とpalan社が開設したVR店舗で、ひがし茶屋街など金沢の観光地を模した空間で工芸品を販売しています。2025年春には対象を石川・北陸から全国に広げてリニューアルしており、商業施設発の取り組みとして継続しています。
  • 兵庫県養父市「バーチャルやぶ」:吉本興業・ソフトバンクと連携し、明延鉱山の坑道見学や観光名所めぐりができる空間として2022年に開設。その後ブラウザで手軽に入れる「バーチャルやぶ in ZEP」へと形を変えながら運用が続いています。
  • 佐賀県嬉野市「デジタルモール嬉野」:西九州新幹線の開業に合わせて嬉野温泉駅周辺を再現。夏祭りの花火大会を仮想空間のステージで中継し2千人以上が視聴するなど、リアルイベントとの連動企画を重ねています。
  • 鳥取県「メタバース課」とご当地NFT:手塚プロダクション・JTB系のJ&J事業創造と連携した「ご当地アトムNFT」の成功を受け、自治体として初めてメタバース課を設置。XANA上に24時間常設のメタバース空間を構築し、運用を続けています。
  • 宮崎県「バーチャルみやざき」:2025年1月にcluster上でオープンした観光PR用メタバースで、県庁や鵜戸神宮、高千穂峡を再現しています。2025年12月にはアイドルグループの生配信イベントを実施するなど、開設から1年近く継続的に企画を展開している直近の事例です。ゲーム性のある演出で若年層の誘客を狙っている点も特徴で、開設から日が浅いぶん、今後1〜2年の運用実績が注目されます。

これらに共通するのは、観光地の再現だけで終わらせず、商業施設の売上や自治体の広報イベントなど「現実の活動」と空間をひもづけている点です。再現すること自体を目的化してしまうと、公開直後は話題になっても、更新が止まった時点で来訪が先細りします。

関係人口づくり・移住促進

関係人口・移住促進を目的とした施策は、単発の情報発信で終わるか、住民参加型のコミュニティに育つかで明暗が分かれています。パビリオン型で情報を並べるだけの施策は会期終了とともに閉じやすい一方、参加者自身が当事者としてかかわる仕組みを持つ施策は長く続いています。

  • 新潟県山古志地域「仮想山古志」&Nishikigoi NFT:2021年12月からデジタル住民票としてNFTを発行し、現在はNFT購入者による「デジタル村民」が実住民数(約800人)を上回る900人超に達しています。メタバース上での合同慰霊祭や火焚き神事のハイブリッド開催など、現実の住民と協働する体制が確立しており、継続性の高い代表例です。
  • 秋田県「あきた移住・交流メタバース万博」(終了):なまはげやかまくらなど県内名所をモチーフにしたパビリオンで移住情報を発信していましたが、2025年3月31日をもって運用を終了しました。謎解きイベントなど企画を重ねていたものの、単年度・単発プロジェクトとしての限界を示す事例です。
  • メタバース婚活(GAIA TOWNほか):千葉県木更津市・君津市・富津市・袖ケ浦市の4市合同イベントや、山形県村山市「marry360」などを皮切りに、2024〜2025年にかけても千葉県や複数自治体で同種のメタバース婚活イベントが継続的に開催されています。移住・定住支援と婚活支援を組み合わせる手法として定着しつつあります。
  • 広島県三原市「メタカープ」:広島東洋カープのファンクラブ向けメタバース内に、ふるさと納税や特産品情報へ遷移できるブースを設置。実証実験から実装へと展開を広げており、既存のファンコミュニティに乗せる手法として継続しています。マツダスタジアムに足を運びにくい遠方のファンに三原市の存在を知ってもらう狙いがあり、新規にファンを集める必要がない点が運用の負担を下げています。

教育・人材育成

  • 長崎県西海市「西海メタバースアカデミー」(終了):Web3.0とメタバースの知識を学べる全8講座を2022年9〜10月に開校しましたが、講座終了とともにプログラムも終了しています。単発講座型の企画は、講座が終わると自動的に役目を終える典型例です。

続いた施策と終わった施策の違い

ここまで見てきた事例を比較すると、継続の有無を分けているのは「予算の有無」以上に「運用の仕組み」であることがわかります。同じようにNFTやパビリオンを使っていても、山古志のように何年も続く施策と、秋田県のように会期終了とともに閉じる施策に分かれるのはなぜなのか、この章で整理します。

続いている施策に共通する3つの条件

継続している施策には、(1)現実の店舗・商業施設・ファンクラブなど既存の経済活動や運営主体と結びついている、(2)住民やファンなど「中の人」が自発的に参加する仕組みがある、(3)単発イベントではなく年間を通じた企画更新を前提に設計されている、という3つの共通点が見られます。

山古志の「デジタル村民」制度は、NFT購入者自身がコミュニティの担い手となり、現実の住民と合同で行事を企画する関係に発展しています。金沢・嬉野のケースは、商業施設や地域の商店街という「すでに収益を生んでいる主体」がメタバースを販促チャネルの一つとして位置づけているため、自治体単独の予算に依存していません。この「自治体が主役でなくてもよい」設計が、結果的に継続性を高めています。

終了した施策に共通するつまずきポイント

一方で終了した施策は、単年度予算で構築された上に、その年度限りのイベント(万博型パビリオン、単発講座)として企画されていた点が共通しています。秋田県の移住・交流メタバース万博は、謎解きイベントなど企画自体は工夫されていたものの、「万博」という期間限定の枠組みで設計されていたため、会期が終われば役目も終わる前提になっていました。西海市のメタバースアカデミーも、8回の講座という完結型のカリキュラムであったため、受講者の修了と同時に目的が達成され、継続の必要性自体がなくなっています。

つまり終了そのものが失敗とは限りません。「最初から期間限定の企画として設計し、目的を達成したら閉じる」判断ができていたという意味では、むしろ健全な終わり方といえます。問題になるのは、本来は継続したいはずの施策を、単年度予算の都合だけで終わらせてしまうケースです。

自治体がメタバース観光を導入する際の注意点

メタバース観光の導入を検討する際は、効果を出す前に力尽きないよう、予算・人員・評価指標の3点をあらかじめ設計しておく必要があります。前章で見た「続く施策」の条件を満たすには、企画段階でこの3点を具体的に詰めておくことが欠かせません。以下、それぞれのポイントを解説します。

単年度予算の壁をどう超えるか

単年度予算で構築すると、翌年度に更新予算がつかず休止するケースが多く見られます。構築費だけでなく、運用・更新費を複数年度にわたって確保できるかを、企画段階から財政部門と調整しておく必要があります。前述のとおり、商業施設や地元事業者と収益を分け合う設計にできれば、自治体の単年度予算だけに依存せずに運用を続けられる可能性が高まります。ふるさと納税の返礼品紹介や物産販売と組み合わせる手法は、この観点からも相性がよい選択肢です。

運用を支える人員体制

空間を作って終わりにせず、イベント企画やSNS発信、問い合わせ対応を続ける担当者が必要です。庁内の異動サイクルで担当者が代わっても運用が途切れないよう、企画・運用マニュアルの整備や、外部パートナーへの運用委託と庁内担当者の役割分担をあらかじめ決めておくと、担当者交代後も安定して続けやすくなります。構築を請け負う事業者を選ぶ際も、構築だけでなく運用支援まで対応できるかを確認しておくと安心です。

効果測定の指標をどう確認するか

「来訪者数」や「ふるさと納税額」「物産売上」といった観光施策本来の指標に加え、メタバース特有の「アクセス数」「滞在時間」「イベント参加者数」なども補助指標として設計しておくと、次年度の予算要求や議会への説明材料になります。なお、メタバース来訪が実際の観光来訪や消費にどこまで寄与したかを単体で証明するのは難しく、「必ず誘客につながる」「必ず移住者が増える」といった断定は避け、SNS発信やリアルイベントと合わせた複合的な効果として評価する姿勢が実務上は現実的です。

都市連動型メタバースとインバウンドの接点

ここまでは個別の自治体施策を見てきましたが、都市規模・国規模でメタバースと観光を結びつける動きも進んでいます。都市連動型の大規模メタバースと、インバウンド向けの活用動向を押さえておきましょう。

バーチャル渋谷(2020年開設、KDDI・渋谷区観光協会などが運営)のように、都市と連動した大規模メタバースも各地で動いています。渋谷区公認のプロジェクトとして複数年にわたりハロウィーンイベントなどを継続開催しており、都市連動型メタバースの中では比較的長く運用が続いている事例です。

一方、大阪・関西万博に合わせた「バーチャル万博」は2025年10月13日の万博閉幕と同時にサービスを終了しました。これは、万博開催前から大阪府・市が構築していた「バーチャル大阪」とは別の、万博公式のバーチャル会場です。期間限定イベントに紐づくメタバースは、イベントの終了とともに役目を終えるという、本記事の分析と同じ傾向を裏づける事例といえます。

インバウンドとの接点では、民間事業者がMeta Horizon Worlds上に「Visit Japan」ワールドを公開し、訪日前の日本文化紹介に活用する動きも出てきました。観光庁は2025年度・2026年度と「観光DX推進事業」の補助金公募を継続していますが、現時点でメタバース導入に特化した補助メニューは確認できず、AIによる需要予測やブロックチェーン活用のポイントプログラムなど、より広いデジタルツール導入支援の枠組みの中に位置づけられています。メタバース導入を補助金ありきで計画する場合は、対象経費の定義を事前に必ず確認してください。

Webメタバースという選択肢

多くの自治体は、専用アプリのインストールや高価なVR機器を不要とする「Webメタバース」を採用しています。ブラウザからURLにアクセスするだけで参加できるため、住民・観光客どちらにとっても参加のハードルが低いことが理由です。

ブラウザ完結型が自治体に選ばれる理由

アプリ型は開発・審査・ストア対応のコストがかかる一方、Webメタバースは構築期間が短く、QRコードやSNSのリンクから直接誘導できます。観光客側も事前のインストールが不要なため、観光案内所や駅のポスターからその場でアクセスしてもらう、といった使い方もしやすくなります。

一時的な観光キャンペーンだけでなく、年間を通じた運用を見据えるなら、空間の更新や新規コンテンツ追加のしやすさの面でもWeb型が扱いやすい選択肢です。株式会社Urthが提供する「メタテル」もブラウザ完結型のサービスで、観光地再現から物産販売、イベント開催まで一つの空間で対応できます。

よくある質問(FAQ)

メタバース観光の導入を検討する自治体担当者の方からよく寄せられる質問をまとめました。企画立案前の確認用にご活用ください。

Q1. メタバース観光は本当に観光客を呼べますか? A. メタバース来訪だけで来訪者数の増加を保証するものではありません。現地訪問前の認知獲得や予習ツールとして位置づけ、現実の観光プロモーションと組み合わせて初めて効果が見込める施策です。

Q2. 自治体がメタバースを導入する際の費用感は? A. 構築規模や機能によって幅がありますが、単発イベント用の簡易空間から、年間運用を前提にした常設空間まで差があります。構築費だけでなく、運用・更新費を含めた複数年度の予算を見込んでおく必要があります。

Q3. なぜ自治体のメタバース施策は終了するものが多いのですか? A. 単年度予算で構築され、かつ万博パビリオンや単発講座のように期間限定の企画として設計されているためです。構築後の運用担当者や更新予算が確保されていないと、話題性が一巡した時点で終了しやすくなります。

Q4. 継続している施策にはどんな共通点がありますか? A. 商業施設やファンクラブなど既存の経済活動と結びついている、住民やファンが自発的に参加する仕組みがある、単発でなく年間を通じて企画を更新している、という3点が共通しています。

Q5. VR機器がないと参加できませんか? A. 本記事で紹介した事例の多くはWebブラウザ完結型で、PCやスマートフォンがあれば参加できます。VR機器は必須ではありません。

Q6. インバウンド向けにメタバースを使う意味はありますか? A. 訪日前の旅行者に日本文化や地域の観光地を事前に体験してもらい、興味関心を高める用途での活用が始まっています。ただし現時点では実証段階の取り組みが中心で、インバウンド誘客への効果が確立した手法とまでは言えません。

まとめ

メタバース観光は、単体で来訪者数を保証する施策ではなく、現実の観光・特産品購入・関係人口づくりへの「入口」として機能したときに価値を発揮します。継続している事例に共通するのは、既存の経済活動やコミュニティと結びつき、単年度で終わらない運用設計を持っていることです。反対に、期間限定イベントとして設計された施策は、会期終了とともに終わることも珍しくありません。

自治体として導入を検討する際は、本記事の目的別分類表と「続いた施策・終わった施策」の分析、導入時の注意点を参考に、構築費だけでなく構築後の運用体制・運用費まで含めて計画することをおすすめします。

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