オープンキャンパスをVR化する動きは、2020年前後のコロナ禍をきっかけに広がり、2026年現在も形を変えながら続いています。「自校でも導入すべきか」「導入するなら何から手をつければよいか」を判断するには、実際に稼働している事例と、費用・期間の相場、効果の測り方をあわせて把握しておく必要があります。本記事では、2026年10月時点で確認できる大学の事例、導入にかかる費用と期間の目安、効果測定の考え方まで、広報・入試担当者が導入を判断するために必要な情報をまとめます。結論から言うと、VRオープンキャンパスは対面の代わりではなく、対面に来られない層への接点をつくる補完策として位置づけるのが現実的です。
VRオープンキャンパスとは
VRオープンキャンパスとは、高校生や受験生がVRゴーグル・スマートフォン・PCを通じて、校舎や授業の様子を自宅から体験できる仕組みです。実施方法は大きく3種類あり、どれを選ぶかで制作コストも来場者の体験も変わります。「VRオープンキャンパス」という言葉だけを見ると1つの技術のように思えますが、実際には撮影ベースの360度動画から、アバターで交流できるメタバース空間まで、実装の幅が広い点をまず押さえておく必要があります。

3つの実施形態、体験のつくり方が違う
| 実施形態 | 体験のつくり方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 360度動画・写真 | 校舎をカメラで撮影し、パノラマ画像として公開する | 低コストで導入しやすいが、来場者同士やスタッフとの相互のやり取りはできない |
| 3D空間(CG) | 校舎や教室をCGで再現し、アバターで歩き回れるようにする | 演出の自由度が高い一方、制作コストと期間がかかる |
| メタバースプラットフォーム利用 | cluster・VRChatなど既存プラットフォーム上に空間を構築する | アバター同士の交流や個別相談ができるが、プラットフォームの仕様や規約に依存する |
来場者がどう体験するかも、2つに分かれます。ブラウザ完結型は、スマートフォンやPCでURLを開くだけで体験でき、アプリのインストールやアカウント登録を必要としません。一方、VRChatの一部機能やVRゴーグルを前提にしたコンテンツは、臨場感が高まる反面、来場者側に準備の手間が発生します。受験生の大半がスマートフォンからアクセスすることを踏まえると、まずブラウザ完結型で間口を広げ、必要に応じてVRゴーグル対応を足していく設計が現実的です。なお、オープンキャンパス以外も含めた教育分野でのVR活用全般については、教育でのVRとは?導入事例やメリット・デメリットを紹介で解説しています。
VRオープンキャンパスを導入するメリット
VRオープンキャンパスの主な利点は、遠方・部活動・体調などの理由で来校できない層に接点をつくれることと、質問対応や個別相談を仕組み化できることです。対面の代わりではなく、対面では拾いきれない層への補完策として機能します。

地理的・時間的制約をなくし、繰り返し接触してもらえる
対面のオープンキャンパスは、開催日・開催時間・交通費・移動時間という制約を受験生に課します。年に数回しか開催されない大学も多く、部活動の大会や模試と日程が重なれば、参加自体をあきらめる受験生も出てきます。VR版は24時間いつでもアクセスできるため、遠方に住む受験生、海外在住の受験生、通学時間の確保が難しい受験生にも、大学の雰囲気を伝える機会をつくれます。保護者が先に自宅で一緒に確認してから対面参加を決める、という使い方も可能です。
また、パンフレットや公式サイトの写真だけでは伝わりにくい校舎の広さや教室の雰囲気、校舎間の移動動線を、受験生が自分のペースで何度でも確認できる点も強みです。志望校を絞り込む数か月の間に複数回アクセスしてもらえれば、対面1回では生まれにくい接触回数を積み重ねられます。オープンキャンパス当日に見きれなかった施設を、帰宅後にVRで振り返ってもらう、という使い方もできます。
質問・個別相談をスケールさせられる
3D空間やメタバースプラットフォームを使えば、在学生や教職員とアバターを通じて会話できる個別相談枠を設けられます。対面の個別相談は、会場の広さやスタッフの人数によって同時に対応できる人数が物理的に限られますが、オンライン上であれば時間帯を分けて複数の相談枠を並行稼働させやすく、1人の職員が複数の相談ブースを掛け持ちすることもできます。チャット機能を使えば、人前で声を出して質問するのが苦手な受験生にも対応できます。相談でよく出る質問をログとして残しておけば、FAQページや次年度のオープンキャンパス企画の改善材料にもなります。
VRオープンキャンパスの注意点・デメリット
VRオープンキャンパスは、作って公開すれば終わりというものではありません。継続的な運用コストが発生する点と、対面でしか伝わらない要素が残る点を前提に導入を検討する必要があります。

制作と運用に継続的なコストがかかる
初期制作費だけでなく、在学生・教職員が相談対応にあたる人件費、コンテンツの更新費用、プラットフォームの月額利用料など、公開後も発生し続けるコストがあります。校舎の改修や学部再編、キャンパス移転があれば、その都度コンテンツの作り直しも必要になります。単発のイベントとして公開して更新を止めると、翌年には校舎の様子や学部情報が古くなり、かえって大学のイメージを下げるリスクがあります。公開後の更新担当と予算を、制作段階であらかじめ決めておく必要があります。
対面でしか伝わらない要素は残る
キャンパスの匂いや空気感、在学生同士の雑談から伝わる校風、偶発的に話しかけられて生まれる安心感は、現時点のVR技術では再現しきれません。食堂の混雑具合や売店の品ぞろえ、休み時間の学生の様子といった、パンフレットにもVRにも映りにくい情報が、対面参加の決め手になることも少なくありません。VRオープンキャンパスは対面の代替ではなく、対面に来てもらうための事前情報、あるいは対面に来られない層への補完策と位置づけるのが現実的です。
VRオープンキャンパスの事例
2026年10月時点で確認できる限り、東京大学・電気通信大学・青山学院大学・大手前大学の4校が、形式の異なるVRキャンパス体験を公式に案内しています。実施形態は大学によって様々で、単発イベントとして実施され、その後常設化されなかった例もあります。事例を見る際は「現在も稼働しているか」「どの実施形態か」を分けて確認することが重要です。
実施形態別に見る4校の事例
| 大学 | 実施形態 | プラットフォーム・体験方法 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 東京大学 | 3D空間(CG) | cluster/ブラウザ、常時公開 | 学生サークルが制作したバーチャルキャンパスを、赤門・正門・図書館・安田講堂などエリア別に常設公開しています |
| 電気通信大学 | 360度写真 | ブラウザ完結、VRゴーグルは任意 | 通常は公開されない施設内部も含めて見学でき、オープンキャンパス当日の体験会とも連動しています |
| 青山学院大学 | 3D空間(CG) | cluster、スマートフォン・PC・VRゴーグル(Meta Quest)に対応 | 2026年4月に一般公開し、地方で開くミニオープンキャンパスの会場にVR体験ブースを設置しています |
| 大手前大学 | メタバースプラットフォーム(VRChat) | VRChat、PCまたはVRゴーグル | 2026年3月、対面のオープンキャンパスと同日開催でバーチャルキャンパスを公開し、文化財の茶室も再現しています |
CG再現にこだわる大学もあれば、既存施設を360度写真で手早く見せる大学、既存のメタバースプラットフォームに乗る大学もあります。東京大学や電気通信大学のように、常時アクセスできる案内として運用している例もあれば、青山学院大学や大手前大学のように、特定のオープンキャンパス日程に合わせて体験会を設ける例もあります。自校の目的が接点拡大なのか、個別相談の仕組み化なのかによって、選ぶべき形態と運用の仕方は変わります。


オープンキャンパス以外の場面も含めた大学独自のメタバース活用については、東京大学メタバース工学部は誰でも入学できるの?他大学の事例も紹介でも取り上げています。
一方で、2022年には新潟医療福祉大学が、メタバース空間でのアバター個別相談を伴うオープンキャンパスを実施した例があります。全国の高校生とアバターで交流できる、来場型・WEB型に続く「第3のオープンキャンパス」として話題になりました。現在、同大学の公式サイトで案内されているオープンキャンパスは来場型とWEB型が中心で、メタバース型は常設の案内枠としては掲載されていません。コンテンツ自体の良し悪しというより、相談対応にあたる人員を毎年確保し続けられるかどうかが、常設化の分かれ目になりやすいということです。単発のイベントとして実施するのか、相談対応の体制を継続的に確保して常設化するのかは、導入時にあらかじめ決めておくべき論点です。
VRオープンキャンパスの導入の進め方と費用感
導入は、要件整理、制作、公開・運用という3段階で進みます。費用は実施形態によって数十万円から数百万円まで幅があり、既存プラットフォームを月額利用する形であれば初期費用を抑えられます。
導入までの3ステップと期間の目安
最初に、何のために導入するのか(接点拡大なのか、個別相談の仕組み化なのか)と、対面オープンキャンパスとの役割分担を整理します。この段階で、入試広報部門に加えて、相談対応にあたる在学生・教職員の候補、公開後の更新を担当する部署、予算の承認権限者を決めておくと、後工程がスムーズです。情報システム部門が別にある大学では、個人情報の取り扱いや既存サイトへの埋め込み方法を、早い段階からすり合わせておくことをおすすめします。
次に、実施形態(360度動画・3D空間・プラットフォーム利用)を決め、制作会社の選定、撮影または空間設計、コンテンツ制作に入ります。複数の制作会社から見積もりを取り、既存の学内コンテンツ(ドローン映像や3Dモデルなど)を流用できないかもあわせて確認すると、費用を抑えられることがあります。最後に、公開前の動作テストと、相談対応の運用体制を整えて公開します。360度動画であれば撮影から2週間〜1か月程度、3D空間やメタバース空間を新規に設計・構築する場合は要件整理から公開まで2〜4か月程度が目安です。オープンキャンパスの開催時期から逆算し、余裕を持ったスケジュールで着手することをおすすめします。
実施形態別の費用相場
| 実施形態 | 制作費用の目安 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 360度動画・写真(撮影ベース) | 30万円〜100万円程度 | 2週間〜1か月 |
| 3D空間・メタバース空間を新規に構築 | 100万円〜250万円以上 | 2〜4か月 |
| 既存のメタバース基盤を月額利用 | 月額10万円程度〜 | 契約後1〜1.5か月 |
費用は制作会社や空間の規模、既存コンテンツの流用可否によって変わります。複数社から見積もりを取り、自校の予算と公開したい時期から逆算して実施形態を選ぶことをおすすめします。
効果測定の指標と、対面オープンキャンパスとの使い分け
VRオープンキャンパスの効果は、来場者数・資料請求への遷移率・出願時アンケートでの接触経路といった指標で段階的に見ます。ただし効果は学校の知名度や運用体制によって変わり、導入すれば必ず入学者が増えるというものではありません。
効果測定の指標をどう設計するか
効果測定は、接触・関心・出願という3段階に分けて考えると設計しやすくなります。まず接触段階では、アクセス数・ユニークユーザー数・平均滞在時間で、どれだけ見られているかを把握します。次に関心段階として、個別相談やチャット対応の件数、資料請求ページへの遷移率で、関心がどこまで深まっているかを見ます。最後に出願段階では、出願時のアンケートで「VRオープンキャンパスを見た」という回答がどれだけあるかを継続的に蓄積すれば、出願への寄与を間接的に推測できます。
ただし出願は学校の知名度・学部構成・入試制度・対面オープンキャンパスの内容など多数の要因が絡むため、VR単体の効果だけを切り出して評価するのは難しく、資料請求・相談申込といった手前の指標を主な評価軸にするのが現実的です。「導入すれば入学者が増えるか」という問いには、学校ごとの運用体制次第としか言えないのが実態で、特定の実施形態が入学者数を保証するものではありません。
対面との使い分け——VRは代替ではなく補完
マイナビ進学総合研究所の調査では、イベント参加後に「大学への理解が深まったか」「入学後の自分をイメージできるか」という項目で、出願した学校と出願しなかった学校の間に20〜40ポイントの差があったと報告されています。参加した学校への理解度・解像度が、進学先を決める判断に大きく関わっていることがうかがえます。
対面のオープンキャンパスは、在学生との雑談や偶発的な会話、保護者同伴での相談、実際の設備に触れる体験など、VRでは再現しにくい要素に強みがあります。一方VRオープンキャンパスは、対面に来られない層への接点づくりと、対面に来る前の予習・来た後の振り返りに向いています。たとえば、遠方の受験生にはまずVRで雰囲気をつかんでもらい、関心が高まった段階で対面のオープンキャンパスや個別相談に誘導する、という2段階の設計も考えられます。両者を競合させず、対面で伝えきれない層にVRで接点をつくる、という役割分担で設計すると、どちらの体験の質も落とさずに運用できます。
まとめ
VRオープンキャンパスは、実施形態(360度動画・3D空間・メタバースプラットフォーム)と費用感を理解したうえで、対面との役割分担を決めてから導入すると失敗しにくくなります。単発公開で終わらせず、相談対応の運用体制と更新予算まで含めて検討することが、継続的な成果につながります。自校の目的が接点拡大なのか個別相談の仕組み化なのかを整理し、それに合った実施形態と費用感を選ぶことが、導入の出発点になります。
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