導入事例 2026.03.10

【目に見えない価値をどう伝えるか?】製造業がメタバースで手に入れた「伝える力」

酒井化学工業株式会社(以下、酒井化学工業)は、1963年の創業以来、ポリエチレン製品を中心とした包装・梱包資材の製造・販売を通じて、日本の物流と産業を支え続けてきました。養生シートなどに使われるポリエチレンフィルムをはじめ、高いクッション性を持つ発泡ポリエチレンシート「ミナフォーム」、緩衝材として広く知られる「ミナパック」、そして耐久性に優れたプラスチックダンボールなど、その製品ラインナップは私たちの生活のあらゆる場面に深く浸透しています。

同社の強みは、単なる既製品の提供に留まらず、顧客の細かなニーズに合わせてミリ単位で形状やサイズを調整する「フルオーダー体制」にあります。包装のプロフェッショナルとして、いわば「社会の縁の下の力持ち」の役割を担っていますが、BtoB(企業間取引)という事業特性上、一般の学生や求職者にとっては社名が目に触れる機会が少なく、認知度の向上が長年の課題となっていました。

同社の最大の魅力は、「製造現場(工場)」にあります。これまで、入社後のミスマッチを防ぐために「工場見学」を最重要の採用コンテンツとして位置づけてきましたが、コロナ禍の影響で対面での実施が困難となりました。Web会議ツールを用いたライブ中継なども試みましたが、工場の騒音やカメラワークの制約により、求職者が「見たい場所を自由に見る」という能動的な体験を提供できず、遠方の求職者やUターン・Iターン希望者に企業の真の姿を届けきれないというもどかしさを抱えていました。

そこで、Urthが提供するメタバース空間「metatell(メタテル)」を活用し、オンライン上に実物と見誤るほど高精細な3D工場を構築する取り組みが始まりました。単なる会社説明の場ではなく、学生がアバターを通じて自由に工場内を歩き回り、設備や社風を直感的に理解できる「バーチャル工場見学」を実現することで、採用広報の質を劇的に進化させました。

今回は、この先進的な挑戦に至る背景や、3Dモデルが社内にもたらした影響、そしてインターンシップの自動化を見据えた未来の展望について、採用プロジェクトを牽引する美馬様と、導入を支援したUrthの藤田が振り返ります。

BtoB企業の宿命と、コロナ禍で突きつけられた「工場見学」の限界

藤田: まずは、酒井化学工業様がどのような事業を展開されているのか、改めてお聞かせください。

美馬: 弊社は、大きく分けて4種類のプラスチック製品を製造・販売しています。養生シートなどに使われる「ポリエチレンフィルム」、レジャーシート等のクッション材である「ミナフォーム」、軽量でクッション性のある緩衝材「ミナパック」、そして「プラスチックダンボール」です。基本的にはお客様の要望に合わせたフルオーダーメイドで、ミリ単位のカスタマイズに対応しています。

藤田: 私たちの身の回りにあふれているものばかりですね。

美馬: ええ。ただ、弊社の製品はBtoB(企業間取引)が主軸で、最終製品に社名が出ることはありません。そのため、一般の方や学生の方への認知度が低いという課題を常に抱えていました。

藤田: その課題が、今回のメタバース導入にどう繋がっていったのでしょうか。

美馬: 弊社の採用において、最大の魅力は「製造現場(工場)」です。入社後は必ず現場を経験するため、選考前に実際の工場を見てもらい、社風や清潔感を肌で感じてもらうことを大切にしていました。しかし、コロナ禍で対面での見学が不可能になり、大きな壁に突き当たったのです。

スマートフォンでのライブ中継や録画映像の配信も試みましたが、学生が自分の見たい場所を自由に見ることはできず、工場の騒音で音声も聞き取りにくい。結局、こちらが一方的に見せたい映像を流すだけになってしまい、「体験」としての質が著しく低下してしまいました。UターンやIターンを希望する遠方の学生にとっても、移動コストをかけずに「現地の空気感」を知る手段が、どうしても必要だったのです。

なぜ「会議室」ではなく「工場」だったのか? メタバースに求めた双方向性

酒井化学工業株式会社 美馬様

藤田: 実は酒井化学工業様は、数年前にも一度メタバースの導入を検討されていたと伺いました。当時はどのような状況だったのでしょうか?

美馬: はい、今から4〜5年ほど前ですね。当時は他社さんから「メタバース上に会議室やオフィスを再現して、そこで会社説明会をやりましょう」という提案を受けていました。しかし、社内の反応は「メタバースって何?」という戸惑いや、「それを使って一体何になるの?」という反応が大半でした。私自身も、単に会議室をバーチャル化するだけでは導入のメリットを明確に説明できず、結局、プロジェクトは一度中断になってしまったんです。

藤田: 確かに、「場所を移し替えるだけ」では、動機としては少し弱いかもしれませんね。今回、弊社とのプロジェクトが動き出した決定的な違いは何だったのでしょうか。

美馬: それは、「工場そのものを再現する」という提案だった点です。前回の「会議室」の提案はハコを代えるだけのものでしたが、今回は「現場を見せたいけれど物理的に見せられない」という弊社の切実な課題に直結していました。酒井化学工業の魅力は、製品が作られる活気ある現場にこそあります。そこをバーチャル化するという発想は、まさに私たちが求めていたものでした。

藤田: 既存のWeb会議ツールとの違いについてはどうお考えでしたか?

美馬: Web会議ツールとの決定的な違いは、「会話のキャッチボール」の自由度です。Web会議ツールはどうしても「1対全員」の講義形式になり、発言者が固定されてしまいます。しかしメタバースなら、アバター同士が近づけば会話が始まり、離れれば声が届かなくなります。

藤田: 現実の立食パーティーや、実際の工場見学のような感覚に近いですよね。

美馬: そうなんです。あちらでは製品の仕様について盛り上がり、こちらでは福利厚生について質問する、といった「複数の会話が同時並行で生まれる状態」が作れます。Web会議ツールでは不可能なこの双方向性こそが、学生との心理的な距離を縮めるために不可欠だと確信しました。一方的な情報の押し付けではなく、学生が自ら歩き回り、気になるものを見つけ、その場で質問できる。この「能動的な体験」が、弊社の理解を深める最大の鍵になると感じたんです。

想像を絶するクオリティへの衝撃。3Dモデリングが「安心」に変わった瞬間

藤田: 制作期間は約3ヶ月。毎週お打ち合わせを重ねましたが、制作過程での不安などはありましたか?

美馬: 正直に申し上げますと、最終成果物を見るまではずっと不安でした(笑)。初期に見せていただいた他社事例は少しポップなイメージだったので、「このクオリティで、果たして弊社の工場の細部まで再現できるのだろうか」と、社内のメンバーとも半信半疑で進めていました。

ところが、完成間際に「ベイク(影や光の質感をつける工程)」が入った瞬間、衝撃を受けました。空間に急に奥行きとリアリティが生まれ、「本物の工場」が出来上がったんです。

藤田: 喜んでいただけて、とても嬉しいです。社内での反応はいかがでしたか?

美馬: 驚くべきことに、工場のベテラン社員に空間や再現された機械の画像を見せると、「これ、◯号機だね」と即答されるほどの再現度でした。酒井化学工業の工場は、異物混入を防ぐための徹底した清掃や、独自のツールボックス配置など、社員のこだわりが詰まった場所です。その清潔感や、人が介在する工程と自動化された工程のバランスまで完璧に再現されていました。リアを作成できた点は、社内でも驚きの声があり、非常に好評でした。

名刺1枚から広がるバーチャル体験。学生が驚く新しい採用の形

藤田: 導入から約1年。現在はどのような形で活用されていますか?

美馬: 採用パンフレットやメールにURLを載せるのはもちろんですが、一番好評なのは「学生配布専用の名刺」です。名刺の裏面にメタバース工場へのQRコードを載せて学校訪問などで配っているのですが、これが非常に強力なフックになっています。学生からすると「メタバースで工場見学ができる会社」という、先進的なイメージを持っていただけます。

藤田: 実際に体験した学生さんの反応はいかがですか?

美馬: 実際に入場した学生からは「ここまでやるのがすごい」「取り組み自体が面白い」というポジティブな声を多くいただきます。また、採用に関係なく、地域のイベントでプロジェクターに投影して見せた際も、子供達が自分のスマートフォンでアバターを動かしながら楽しんでいました。

藤田: 「見せたいけれど、コストが高くて見せられない」という課題に対しては、どの程度手応えを感じていますか?

美馬: 遠方の学生が気軽に参加できるようになった意義は非常に大きいです。当初の「採用」という目的だけでなく、より広いPR活動にも転用できると考えています。工場は弊社の誇りですから、それをいつでも・どこでも体験してもらえるインフラが整ったことは、大きな財産です。

目指すは「自動化インターン」。AIが下げる学生の心理的ハードル

藤田: 最後に、今後の展望についてお聞かせください。

美馬: 極論を言えば、「24時間365日開催されるインターンシップ」を実現したいです。

藤田: おお、完全自動化ですね!

美馬: はい。例えば、メタバース空間に「AI社員」が常駐していて、学生が質問すればアドリブで完璧に答えてくれる。工場の案内もAIが同行して行う。これなら、人手不足の中でも情報発信の手を緩める必要がありません。

藤田: AIなら、人間には聞きづらい「福利厚生」や「ぶっちゃけ話」も聞きやすいかもしれませんね。

美馬:そうなんです。学生はどうしても対面だと評価を気にして質問を躊躇してしまいますが、アバターを通じたAI相手なら、もっとフラットに本音を引き出せるはず。そうした心理的なハードルを下げる役割も期待しています。

また、弊社のように「現場を見せたくても物理的に難しい」という製造業には、間違いなくフィットしますね。社会を支える「縁の下の力持ち」でありながら、その価値が目に見えにくい製品、あるいは地下や宇宙空間など、実際に行くことが困難な場所で活躍する製品。そうしたものを扱う企業にとって、メタバースでの再現は非常に強力な武器になるはずです。

会社概要

会社名酒井化学工業株式会社
所在地福井県鯖江市川去町32字2-1
設立昭和38年8月
従業員数680名(グループ全体)
事業内容産業用プラスチック資材の製造及び販売(包装、建築土木、雑貨)。
WEBサイトhttps://www.sakai-grp.com/

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