メタバース広告とは、Roblox・ZEPETO・clusterといったメタバース空間の中に看板や映像、イベント出展といった形で広告を出す手法です。従来のバナー広告やSNS広告と違い、アバター同士がすれ違う「空間」そのものが広告枠になる点が特徴で、Z世代・α世代への接点づくりや、短期〜中期のブランド認知施策として活用されています。ただし利用者層はまだ限定的で、効果測定の方法も業界内で確立されていません。本記事では、広告フォーマットごとの費用感や効果測定の指標、2026年時点で継続中の事例と終了した事例を整理します。なお、独自ワールドを構築して世界観をじっくり作り込む長期的なブランディング施策については、メタバースでのブランディングを解説した記事で詳しく解説しています。
メタバース広告とは?
メタバース広告とは、仮想空間内のイベント会場やゲーム内に広告枠を出稿する手法の総称です。現実世界のスタジアム看板やポップアップストアに近い役割を果たしますが、アバターの行動データを取得できる点が従来の広告と異なります。まずは定義と、従来のデジタル広告との違いを整理します。
現実の看板広告・ポップアップストアに近い存在
メタバースは「複数人が同時にコミュニケーションできる仮想空間」を指し、Fortnite(フォートナイト)やRoblox、ZEPETO、clusterなどが代表例です。ゲームというカテゴリーにとどまらず、アパレルや行政、観光など幅広い分野で活用が進んでいます。メタバース広告は、この空間の中にブランドの看板やブース、動画広告枠を設置する手法で、来訪者の目に触れることで認知やサイト流入につなげます。
従来のデジタル広告との違い
メタバース広告とWeb広告・SNS広告は、リーチできる母数や効果測定のしやすさが大きく異なります。結論からいうと、メタバース広告は「母数は小さいが、接触時間と没入度が高い」広告であり、認知拡大の主力というよりは、既存のデジタル施策を補完する立ち位置で使うのが現実的です。
| 比較軸 | メタバース広告 | 従来のデジタル広告(検索・SNS・ディスプレイ) |
|---|---|---|
| リーチできる母数 | プラットフォームの登録・利用者に限られ、数百万〜1億人規模 | 数億〜数十億人規模で広い |
| 接触時間・没入度 | アバターでの滞在時間が長く没入度が高い | スクロール中の数秒接触が中心 |
| 効果測定の成熟度 | 指標が業界内で未統一、検証段階 | クリック・CV・CPAなど指標が確立 |
| 制作コスト | 3D空間・アバター向け素材の制作が必要でコスト高 | バナーや動画素材の流用がしやすくコスト低め |
| 主な目的 | 新規層への接点づくり、話題化、体験型プロモーション | 刈り取り(CV獲得)から認知まで幅広く対応 |
メタバース広告の主な出稿方法・フォーマット
メタバース広告には、ゲーム内の広告枠に出稿するプログラマティックに近い手法から、イベントへの企業出展、インフルエンサーを起用したSNS型メタバースでのPRまで複数のフォーマットがあります。どれを選ぶかは「新規層への接点を作りたいのか」「既存ファンとの関係を深めたいのか」という目的で決まります。
ゲーム内広告枠(インプレッション課金型)
RobloxはGoogleと提携し、2025年4月に「Rewarded Video」広告を本格展開しました。ユーザーが広告視聴と引き換えにゲーム内アイテムを受け取る形式で、2026年時点では400以上のエクスペリエンス(ゲーム)・1,000以上のブランドに広がり、広告の完了率は90%超、視認率は95%超と報告されています。Robloxの1日あたりの利用者数(DAU)は2026年第2四半期時点で1億2,300万人(前年同期比10%増)です。国内では、メタバース内サイネージ広告配信プラットフォーム「アドバーチャ」などが、ゲーム内の看板にCPM換算で数百円程度から出稿できるサービスを提供しています。
イベント・企業ブースへの出展
国内最大級のメタバースイベント「バーチャルマーケット」は、ユーザーが3DCGのアバターで商品を見て回れる展示会形式のイベントです。2025年夏開催の回には130万人規模の来場者が集まり、高島屋やサントリー、インテル、大丸松坂屋百貨店などが出展しました。一定期間、自社ブースを構えて体験型のプロモーションができる点が特徴です。
SNS型メタバースでのインフルエンサー施策
韓国発のアバターSNS「ZEPETO」では、電通・電通デジタル・CARTA COMMUNICATIONS・セプテーニが2024年7月、国内向けの広告パッケージ「Creator Collaboration Package」の提供を開始しました。ZEPETO上で人気のクリエイターを複数起用し、広告であることを明示したPRコンテンツを配信する仕組みで、α世代・Z世代への接点づくりに向いています。
プラットフォーム連携型の広告配信
「cluster」は2024年7月、Google Ad Manager の「Immersive Ingame Ads」を使い、ロビー内でAbemaTVの広告を配信する国内初の実証実験を実施しました。約1ヶ月間の検証にとどまっており、2026年10月時点で本格的なサービス化についての続報は確認できていません。将来的にDV360など複数のDSPからの出稿にも対応する計画が示されていました。
広告フォーマットによって、向いている目的・費用感・測れる指標は大きく異なります。下の一覧表で全体像を把握したうえで、自社の目的に合うものを絞り込むことをおすすめします。
| フォーマット | 適した目的 | 費用感の目安 | 測れる主な指標 |
|---|---|---|---|
| ゲーム内サイネージ広告(アドバーチャ等) | 認知拡大、ブランド想起 | 週30万円程度〜(CPM数百円が目安) | 視認率、表示回数、QRコード流入数 |
| 報酬型動画広告(Roblox Rewarded Video等) | 視聴完了を前提にした認知・好感度向上 | 広告主の出稿規模により変動、Googleの運用型入札 | 完了率、視認率 |
| イベント出展(バーチャルマーケット等) | 体験型プロモーション、ファン化 | 出展規模により数百万円〜(ブース制作費含む) | 来場者数、滞在時間、SNS言及数 |
| SNS型メタバースのPR(ZEPETO等) | 若年層への話題化、インフルエンサー起用 | キャンペーン単位で見積もり | 投稿リーチ、エンゲージメント数 |
| 独自ワールド構築 | 長期的な世界観づくり、顧客関係構築 | 設計・開発費が中心で高額になりやすい | 再訪率、会員登録数など(詳細は姉妹記事を参照) |
メタバース広告のメリット
メタバース広告の強みは、単なる表示回数ではなく、アバターの行動データや滞在時間まで把握できる点にあります。ここでは代表的な3つのメリットを紹介します。
没入感の高さが記憶への定着につながりやすい
アバターで空間を歩き回る体験は、バナーを一瞬見るのとは異なり、滞在時間そのものが長くなります。アドバーチャが公表している自社データでは、ゲーム内サイネージ広告の好感度は約85%、広告想起率は配信前後の比較で約1.8倍としています(いずれも同社の自社調査に基づく数値です)。
新しい顧客層との接点を作れる
RobloxやZEPETOの主要利用者はZ世代・α世代が中心です。従来のテレビCMやWeb広告では届きにくい層に対して、ゲーム内広告やイベント出展を通じて接点を作れる可能性があります。
行動データを細かく取得できる
QRコード経由のサイト流入数や、ブース・ワールド内の滞在時間、再訪頻度などを計測できるため、どのエリアでどれだけ興味を持たれたかを把握しやすい点もメリットです。
メタバース広告のデメリット・限界
メリットがある一方で、メタバース広告には無視できない限界もあります。正直に言えば、現時点ではリーチの小ささと効果測定の未成熟さが最大のネックです。
リーチできる母数がまだ小さい
Robloxの DAU は約1億2,300万人、ZEPETOも若年層中心の利用者層であり、検索広告やSNS広告と比べるとリーチできる母数は限定的です。認知拡大の主力チャネルとして使うには力不足な場合が多く、既存の広告施策と組み合わせるのが現実的です。
効果測定の指標が業界内で統一されていない
メタバース上のキャンペーンは始まってから日が浅く、視聴時間やビューアビリティ、ブランドリフトなど複数の指標が併用されているのが実情で、「何をもって成功とするか」の共通認識がまだ確立されていません。出稿前に、自社として何を成果指標にするかを決めておく必要があります。
制作・運用コストがかかりやすい
3D空間用のアバター衣装やブースのモデリングには専門的な制作が必要で、バナー広告のように素材を使い回しにくく、従来のデジタル広告よりも初期費用がかさみやすい点もデメリットです。出展期間が終われば使い回しが効きにくい一過性の制作物になりがちな点も、予算を検討するうえで押さえておく必要があります。
メタバース広告が向く商材・向かない商材
メタバース広告の成否は、自社の商品・サービスとメタバース利用者層との親和性で大きく左右されます。向き不向きを事前に見極めることが、無駄な出稿を避ける近道です。
向いている商材としては、アパレルやコスメなどアバターの見た目に関わる商品、ゲーム・エンタメ関連の商品、若年層(Z世代・α世代)をメインターゲットとする商品、話題化そのものを目的とした単発キャンペーンが挙げられます。実際にアパレルブランドが期間限定でメタバース上に出店し、体験型の接点づくりに成功している例があります。
一方で向かないのは、ターゲットの年齢層がメタバース利用者と離れている商材(高齢層向け商品など)、即時の刈り取り(CVの最大化)を目的とした施策、制作コストに見合うリターンが見込みにくい少額・単発の予算です。こうした場合は、検索広告やSNS広告など効果測定が確立したチャネルを優先する方が合理的です。
なお、独自ワールドを丸ごと構築して世界観をじっくり作り込み、顧客との長期的な関係を築いていく戦略については、本記事では扱いきれないためメタバースでのブランディングを解説した記事で詳しく解説しています。
メタバース広告の事例
事例を見るうえで欠かせないのが「継続中か、終了したか」の見極めです。2022〜2023年に始まった施策には、すでに終了しているものも少なくありません。ここでは2026年時点で確認できた状況を、継続中・終了・実証実験どまりに分けて紹介します。
継続中の事例
バーチャルマーケットは2025年夏の回で130万人規模の来場者を集め、高島屋やサントリーなど幅広い業種の企業が出展を続けています。BEAMSは2020年12月の初出店以降、継続的にバーチャルマーケットへ出店しており、企業の中でも出店回数が多いことで知られています。渋谷区公認の「バーチャル渋谷」も、渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトの運営のもとで続いており、2025年もハロウィーン施策を実施しました。菓子メーカーのブルボンは2023年にブルボンメタバースを開設し、2024年にはミュージアムエリアの追加や宇宙空間エリアのリニューアルを行うなど、拡張を続けています。Fortniteも2025年にドン・キホーテとヤクルトのコラボ企画「かくれんぼ」を期間限定で実施するなど、企業コラボを継続的に展開しています。
各施策の詳細はバーチャルマーケット公式サイト、渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト、菓子メーカーのブルボンが期間限定メタバースをオープン(MoguLive)をご覧ください。
終了した事例
ナイキが2021年にRoblox上に開設した「NIKELAND」は、2024年5月に終了しています。2022〜2023年頃に相次いだ大手ブランドのメタバース出展には、同様に終了しているものが複数あるため、他社事例を参考にする際は必ず現況を確認してください。
実証実験にとどまっている事例
clusterが2024年7月に実施した、Google Ad Manager を使ったメタバース広告配信は、AbemaTVを対象とした約1ヶ月間の実証実験でした。本格的なサービス化についての続報は、2026年10月時点で確認できていません。
実証実験の内容はクラスター、メタバース内広告配信の実証実験を開始(Mogura VR News)をご覧ください。
メタバース広告の効果測定で見るべき指標
メタバース広告は、クリックやCVだけでは効果を測りきれません。業界内で指標が統一されていない以上、出稿前に自社がどの指標を重視するかを決めておくことが重要です。
代表的な指標としては、広告の表示回数・視認率(ビューアビリティ)、QRコードなど二次元コード経由のサイト流入数、ワールドやブースでの滞在時間・再訪率、そして配信前後の認知度や好感度の変化を見る「ブランドリフト調査」が挙げられます。広告配信事業者のアドバーチャは、自社のゲーム内サイネージ広告について、視認率を最大96%、好感度を約85%とする数値を公表しています(いずれも同社の自社調査に基づく数値であり、個別の出稿結果を保証するものではありません)。
メタバース広告の市場規模
メタバース広告の市場規模については、調査会社によって対象範囲の定義が異なるため、金額だけを見るのではなく前提条件まで確認することが欠かせません。
市場調査会社SkyQuestの推計によると、「メタバース広告プラットフォーム」市場はVR・AR・MR上のディスプレイ広告・没入型広告・スポンサード体験などを対象に、2024年に24.9億米ドル、2025年に31.5億米ドルの規模とされ、2033年には208.1億米ドル(年平均成長率26.6%)まで拡大すると予測されています。この数値はあくまで海外調査会社による推計であり、対象プラットフォームの定義や為替レートによって印象が変わる点に注意が必要です。
推計の前提はMetaverse Advertising Platform Market(SkyQuest)で確認できます。
よくある質問
最後に、メタバース広告についてよく寄せられる質問をまとめます。
メタバース広告はどのくらいの予算から始められますか
ゲーム内サイネージ広告であれば週30万円程度から出稿できるサービスもあります。一方、独自ブースの出展や空間制作を伴う施策は、デザイン・開発費がかさむため数百万円単位になることも珍しくありません。目的と予算に応じてフォーマットを選ぶことが重要です。
効果測定はどの指標を見ればよいですか
業界内で指標が統一されていないため、自社の目的(認知拡大か、サイト流入か、ブランドイメージの向上か)に応じて、視認率・流入数・滞在時間・ブランドリフトのいずれを重視するかを事前に決めておくことをおすすめします。
中小企業でもメタバース広告は出稿できますか
ゲーム内サイネージ広告のように比較的小規模から出稿できるフォーマットもあります。ただし、ブース出展や独自ワールドの制作は費用がかさみやすいため、まずは小規模なフォーマットで検証することをおすすめします。
どんな商材がメタバース広告に向いていますか
アバターの見た目に関わるアパレル・コスメ、ゲーム・エンタメ関連の商品、Z世代・α世代をターゲットとする商品が比較的親和性が高い傾向にあります。詳細は本記事内の「向く商材・向かない商材」をご覧ください。
メタバース広告とメタバース上でのブランディングは何が違いますか
メタバース広告は広告枠への出稿やイベント出展など、短期〜中期の施策を指します。一方、独自ワールドを構築して世界観をじっくり作り込み、顧客との長期的な関係を築く戦略は「メタバースブランディング」と呼ばれ、考え方や進め方が異なります。詳しくはメタバースでのブランディングを解説した記事をご覧ください。
出稿から公開までどのくらいの期間がかかりますか
ゲーム内サイネージ広告のように既存の広告枠に出稿する形式であれば、クリエイティブ(動画・画像素材)さえあれば数週間程度で開始できる場合があります。一方、イベント出展用のブースや独自の空間制作を伴う場合は、設計・3Dモデリング・検証の工程が必要になるため、数ヶ月単位のスケジュールを見込んでおくと安心です。
まとめ
メタバース広告は、Roblox・ZEPETO・バーチャルマーケットなど複数のフォーマットが育ちつつある一方で、リーチの小ささや効果測定の未成熟さといった限界も抱えています。市場規模は調査会社によって2024年時点で数千億円規模と推計されていますが、前提条件は推計ごとに異なります。自社の商品・サービスとメタバース利用者層の親和性を見極めたうえで、小規模なフォーマットから検証を始めることが、無駄な出稿を避ける近道です。より長期的な世界観づくりやブランディングを検討したい場合は、メタバースでのブランディングを解説した記事もあわせてご覧ください。
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