導入事例 2026.03.04

富士フイルムがメタバースで挑む、LTV向上のためのコミュニケーションマーケティング

1934年の創業以来、写真フィルムの国産化を皮切りに、現在ではヘルスケアやエレクトロニクスなど多岐にわたる領域で世界をリードする富士フイルム株式会社(以下、富士フイルム)。

同社が祖業であるイメージング領域をさらに加速させるために着目したのが、ユーザーとの「コミュニケーションマーケティング※」でした。 グループパーパスである「地球上の笑顔の回数を増やしていく」を実現するための新たな挑戦、それがメタバースの活用です。

今回の取り組みでは、写真愛好家向けWebメタバース「House of Photography in Metaverse(以下、HoP)」をオープン。 デジタルカメラのショールームやギャラリー機能に加え、ファン同士やメーカーとの交流スペースを備えたこの空間は、新しいスタイルのコミュニケーション拠点として賑わいを見せています。

富士フイルムのメタバース空間HoP

この挑戦に至る背景や成果、そして今後の展望について、プロジェクトを主導した同社の国内営業部門である富士フイルムイメージングシステムズ株式会社の上野様、工藤様、そして「metatell」導入を支援した株式会社Urthの田中・藤田が語ります。

※コミュニケーションマーケティング:企業側からの一方的な情報発信ではなく、顧客との双方向のコミュニケーションを通じて相互理解や共感を深め、中長期的なエンゲージメントを高めるマーケティング手法

「お客様の迷子」を解消したい。共感を広げるコミュニケーションマーケティングの強化

富士フイルム株式会社の工藤様(左)と上野様(右)

田中:今回、メタバース導入に至った背景には、どのような課題感やミッションがあったのでしょうか?

上野:私は2021年からイメージング分野の、新しい商品やサービスの企画に携わっています。今回のプロジェクトの根底にあったのは、祖業である写真・カメラ領域における「コミュニケーションマーケティングを強化したい」という想いでした。

実は、富士フイルムはハイエンドデジタルカメラ領域においては後発企業にあたります。 そんな我々の製品である「Xシリーズ」が市場でご評価いただいている最大の要因は、非常にコアなファンの方々の存在です。開発者や営業担当の想い、製品が生まれるまでのストーリーに深く「共感」してくださっている点が、他社にはない私たちの強みだと認識しています。

藤田:機能やスペックだけでなく、ブランドが持つ物語そのものを愛してくださっているのですね。

上野:その通りです。だからこそ、この「共感」の輪を広げ、ファンの方々を増やしていくことが、弊社のビジネス全体をドライブさせる鍵になると考えました。

しかし一方で、近年は街のカメラ専門店の数が減少したことで、ユーザーが気軽に相談をしたり、実際に現物を見に行くことが難しくなったという声を聞きます。結果、製品選びで「迷子」になってしまう方が増えている印象です。同時に、我々がお客様に直接想いを伝える場も減ってしまいました。

そこで、「お客様の迷子」を解消し、想いを届けるための新しい手段として、メタバースに可能性を感じたのがきっかけです。

SNSでもリアルでもない「3次元ならではの体験価値」写真の楽しさを伝える

田中:コミュニケーションの手段として、SNSやZoomなどのビデオツールではなく、あえてメタバースを選ばれた理由は何でしょうか?

上野:既存施策の延長線上ではチャレンジ精神が足りていないと感じたことも大きいですが、会社からも「新しいことと、例えばXR領域などにも挑戦してほしい」というミッションを与えられていました。

既存のSNSは情報の拡散や認知獲得には優れていますが、テキストベースの一方的な伝達となりやすく、どうしても情報にリアリティを持たせにくい側面があります。一方で、全国行脚のイベントやショールームなどの「リアル施策」は体験価値は高いものの開催頻度や地理的な制約があり、お客様にとっても我々にとってもハードルが高いのが実情です。

私たちが求めていたのは、SNSよりも双方向性があり、リアル施策よりも気軽に参加できる「中間」の場所でした。 メタバースであれば、アバターを介して物理的な距離を超えた「対面に近い感覚」で音声によるコミュニケーションが取れます。視野の中に他者の動きを感じ、偶然の出会いが生まれる。これはビデオ会議ツールやSNSでは代替できない価値です。

また、「写真」という商材との相性も決め手でした。 写真を単にSNSのタイムラインに流すのと、空間に「展示」するのとでは、見る側に伝わる印象が全く異なります。
例えば、リアルのフォトギャラリーでは、壁面毎に写真のトーンや撮影場所、テーマなどを変えてストーリーを作るといったことができます。写真を点ではなく面で見せる感じでしょうか。長年写真に携わる者としては、本来そういうところも含めて「写真の見せ方」だと考えています。
一方、SNSでは画面上でスクロールやスワイプをして1枚ずつ写真を見るだけなので、ストーリー性を作ることは難しいですよね。

若い方々の中には、SNSに写真を掲載し、そこに「いいね」をもらって満足している方もいらっしゃいますが、富士フイルムからすると「もっと写真の見せ方を深めて楽しめるんじゃないですか?」と提案したいですね。その代表的なものが写真展だと思います。

しかし、自分の作品をリアルギャラリーに展示し、他者を招いて会話を楽しむ、そういった個展を開くには金銭的にも肉体的にも多大な負荷がかかります。
ギャラリーのレンタル代、集客費用、写真のプリント・額装代などで数十万円かかることも珍しくないですし、開催期間中仕事を休んで毎日在廊できる方も多くはないでしょう。
リアルで個展を開くのは想像以上にハードルが高いんです。
複数人でグループ展を開催する選択肢もありますが、1人あたりの飾れる範囲が狭まってしまうのでこちらもストーリー性が作りにくいです。
全て自分の写真で埋める個展と比較すると満足度が大きく変わります。

そう考えた時に、写真をリアルにプリントする以外は全て同様の魅力を実現することができるのがメタバースギャラリーでした。
メタバースであればバーチャルギャラリーを活用してストーリーを作ることもできますし、アバターとなって在廊し、観に来たお客様と写真について話したり解説することができます。
SNSで「1000いいね」をもらうより、ギャラリーを通して「100人に生の声で感想をもらう」方が、きっと写真を観てもらうことの楽しさ、満足感はずっと高まるはずです。そして何より、メタバースギャラリーは誰でも手軽に挑戦することができます。費用もギャラリーのレンタル代だけで済みますし。
もちろん、メタバースで写真展をやってみて、その魅力を味わったなら次はリアル展示にも挑戦して欲しいですけどね。リアルの方がさらにワクワクすると思います。

私たちはメタバースを使ってそうした体験を提供することで、結果としてLTV(顧客生涯価値)の向上につながると考えています。 この「3次元空間ならではの体験価値」については、社内稟議を通す際にも強く説明しました。

ただ、「SNSやビデオ会議ツールをやめてメタバース一本にします」という単純な比較論ではありません。 それぞれの強みを活かし、SNSにはできない機能をメタバースで補完するというイメージです。

田中:確かに、いきなりリアルギャラリーを作るのはハードルが高いですね。まずは
メタバースでノウハウや楽しさを体感し、「次はリアルで挑戦しよう」というステップになれば理想的ですね。

上野:そうですね。メタバースというクッションを挟んで個展を開く醍醐味を味わってからリアルギャラリーでやろうとなるのが理想ですよね。

田中:ちなみに、こうした新しい取り組みを企画する中で、社内の反応はいかがでしたか?

上野:部門の独立性が高かったこともあり、特に大きな反対はありませんでした。というより、メタバースという未知のものに対して皆さんあまりピンときていなかったという方が正しいかも知れません(笑)それでも、事業部のトップから直接承認をもらいましたし、「既存ビジネスの役に立つツール」として企画したことが良かったのだと思います。 ただ、社内外への浸透という意味では、まだまだ我々のアピール不足な面もあります。今後は自社の営業部門や販売店様、写真家の皆様など、もっと巻き込んでいきたいですね。

ゴーグル不要のWebベースが、参加のハードルを下げる手軽さにつながる

藤田:数あるメタバースプラットフォームの中で、metatellを選定いただいた理由をお聞かせください。

上野:最大の理由は「Webブラウザベースであること」です。 メタバースというと「VRゴーグルを被って…」というイメージが先行しがちですが、私たちが実現したいのはVR技術の追求ではなく、あくまで「お客様とのコミュニケーション」です。 専用アプリのダウンロードや高価な機材が必要であっては、多くのお客様にとって入り口が高い壁となってしまいます。PCやスマートフォンから、URLをクリックするだけで誰でもアクセスできる。この「手軽さ」がなければ、目的である製品訴求やファン作りは達成できません。

「広さ」ではなく「深さ」を追う。試行錯誤の末に見つけた、メタバースでやるべき取り組み

藤田:これまでHoPを通じて様々な取り組みをされてきたかと思いますが、直近ではどのような活用をされていますか?

工藤: 現在は、リアルとメタバースを組み合わせた「ハイブリッドな施策」に注力しています。 具体的には、実際に集まって行う「写真撮影会」、ビデオツールを使った「講評会」、そして選ばれた作品を「メタバースギャラリー」に展示・鑑賞する会という一連の流れをパッケージ化しました。

藤田:それぞれのチャネルの得意分野を活かした、非常に理にかなった構成ですね。

工藤:はい。以前はすべてを対面で行おうとしていましたが、どうしても物理的な移動や時間の制約がありました。 そこにメタバースを組み込むことで効率化しつつ、「自分の作品がバーチャル空間に飾られる」という新しい体験価値を提供できています。参加者様からも「作品が飾られて嬉しい」「次はもっと良い写真を撮りたい」と非常に好評で、リピーターも増えています。

上野:ただ、ここに至るまでは苦労もありました。 導入初期は、社内の厳格なコンプライアンスやセキュリティ基準と、メタバース特有の自由度とのバランスに悩み、「場の常時開放が難しい」「チャット機能が制限される」など、Zoomの延長線のような使い方しかできない時期もありました。

また、ハードウェアへの依存度も課題でした。古いPCではアクセスできなかったり、通信環境によって音声が不安定になったりと、「操作方法が分からない」というお声もいただきました。 「リアルでやっていたことを、そのままメタバースに持ち込んでもうまくいかない」。「誰もが自由に入れる夢のような空間、というわけではない」。スタート直後はそうした現実の壁に直面し、少しつまずいてしまった感覚はあります。

しかし、Urthさんに伴走いただき、機能改善や運用ルールの見直しを重ねたことで状況は好転しました。現在はユーザー間でのチャットや画像共有、空間の貸し出しなど、本来やりたかった「自由なコミュニケーション」が実現できる環境が整ったと思います。 おかげで、今ではアンケートでも高い満足度をいただけるようになりました。

工藤:Urthさんのシステムは、エンジニアに依存せず自分たちで空間をカスタマイズできる柔軟性(フレキシビリティ)がある点も、運用の助けになっていますね。
例えば、先日開催した写真展では、期間限定の特別空間を弊社のスタッフが自ら制作しました。その様子を見ていて、「自分たちだけでこれほど簡単に作れてしまうのか」と私自身も驚いた記憶があります。

藤田:改善を重ねることで、ユーザー様にも価値が伝わる体験設計になったのですね。
metatelはお客様ご自身で空間を編集いただくことが可能なのですが、そういった特徴もご活用いただけて嬉しいです。

工藤:我々の意識面でも変化がありました。 「何でもメタバースで」と固執するのではなく、目的に合わせてチャネルを使い分けるようにしています。 例えば、大量の人に情報を発信したい場合はウェビナーが適していますし、対面の良さももちろん残しています。 その中でメタバースは、「広さ」を追うのではなく、コミュニケーション体験の価値という「深さ」を追うチャネルとして位置づけています。 失敗を経て、メタバースでやるべき取り組みの方向性が明確になったことは大きな収穫でした。

これからが「第二章」、ユーザーが主役の「遊び場」になるのが理想

田中:最後に、今後の展望やメタバースを通じて実現したいビジョンをお聞かせください。

上野:導入から3年を一区切りと考えていますが、これからは「第二章」に入ると感じています。これまでは富士フイルムが主体となってイベントを企画してきましたが、今後は私たちが「黒子」となり、ユーザーの皆様が自発的に楽しむ「プラットフォーム」としてHoPを開放していきたいと考えています。

藤田:自発的なコミュニティにしていくにあたって、具体的にどのようなユーザー層の方々に来ていただきたいとお考えですか?

上野:カメラのコアなファンの方はもちろんですが、「やってみたいけれど、今ひとつ踏み出せない」という方にこそ来ていただきたいですね。
例えば、定年退職されて新しい趣味を探している方などです。写真は旅など他の趣味とも相性が良いですし、何より「健康」にすごく良いんですよ。機材を持って歩くので体力づくりになりますし、露出や絞りといった設定を考えることは脳の活性化にもつながります。「フォトセラピー」という言葉があるくらい、心身ともに元気になれる趣味なんです。

田中:「写真を撮る」という行為そのものが、健康や生きがいにつながっていくわけですね。

工藤:そうした興味をお持ちでも「どのカメラを買えばいいか分からない」「どう楽しめばいいか分からない」と迷われている方は多いはずです。
そうした方々に対して、HoPでは堅苦しいセミナーではなく、写真家さんのカジュアルなトークを聞いたり、我々と雑談したりすることで、「写真はもっと自由に楽しんでいいんだ」と感じていただきたい。自分の中にあるハードルを下げていただける場所にしたいですね。

上野: 世の中のSNSやコミュニティを見ていると、どうしても機材のスペックや、「こう撮らなきゃいけない」というルールの話になりがちですよね。「カメラはフルサイズ機じゃなきゃダメだ」とか「高級レンズじゃないと画質が…」といった声が大きくて、それが初心者の方を萎縮させてしまっている側面があると感じています。 でも本来、名作と呼ばれる写真は機材のスペックだけで決まるものではありません。どんな機材であれ、その人がどう撮りたいかが一番大切なんです。

藤田:確かに、これから始める方にとって「正解」を押し付けられる空気感は、少し入りづらいかもしれません。

上野:そうなんです。だからこそHoPは、そういった「知識や経験で線引きをする考え」から一番遠く離れた空間でありたいです。
初心者もベテランもフラットに交流できる、そんな「写真愛好家の遊び場」を作りたいですね。

生成AIの台頭などにより、写真を取り巻く環境は変化しています。だからこそ、「自分で撮る楽しさ」「作品を通じて人とつながる喜び」という体験価値を伝えていくことが重要です。 メタバースでの体験を通じてファンになっていただき、LTVを高めていく。地道な積み重ねですが、それが結果として「富士フイルムは新しいイメージングの世界を見据えている」という市場へのメッセージにもなると信じています。

会社概要

会社名富士フイルム株式会社
所在地東京都港区赤坂9-7-3
設立2006年10月2日
従業員数5,695名(2025年3月31日現在)
事業内容ヘルスケア(メディカルシステム、バイオCDMO、LSソリューション)、エレクトロニクス(半導体材料、ディスプレイ材料、その他エレクトロニクス材料)、イメージング(コンシューマーイメージング、プロフェッショナルイメージング)に関わる製品・サービスの提供
WEBサイトhttps://www.fujifilm.com/jp/ja

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